ピンクの髪はRuby色。STORES の広報から技術広報に転身した1年間
STORES で技術広報を務める加藤千穂さんこと、「えんじぇるさん」。マーケティング担当として STORES に入社した後、キャリアのピボットを経て現在の仕事に就きました。知識がない中体当たりで仕事をやり遂げる方法、Podcast番組『論より動くもの.fm』の立ち上がりの裏話など、さまざまなお話を聞きました。
ベンチャーが恋しくなって飛び込んだ STORES
──本日はよろしくお願いします。インタビュー冒頭に、ひとつお伺いしたいことが。加藤さんは社内で「えんじぇるさん」と呼ばれていますよね。これはどんないきさつでついたお名前なのでしょう。
これは大学時代に自分が言ったのが発端なんですよ。男性の方が圧倒的に多いバスケットボールサークルに所属していて、もう少し楽しい雰囲気が欲しいなと思って自分のあだ名を「えんじぇる」にしてみました。大学でそう呼んでくれた人は少なかったのですが、それからこのニックネームを使ってきました。
──なるほど。ではこのインタビューも社内でお呼びする時と同じように「えんじぇる」さんでお呼びしながら行いたいと思います。改めて、えんじぇるさんと言えばエネルギッシュに仕事をしている様子が印象的です。この仕事観はいつ形成されたものなのでしょうか。
幼い頃から母に「大人になったら自分で働いて稼ぎなさい」と言われていたので、バリバリはたらく女性に憧れていました。大学では、学内でも難しいと言われるゼミに在籍。当時の私はとても意識が高かったと思います。
そんな大学時代を過ごしたので、新卒の就職先には、厳しくチャレンジングな環境を選びました。当時気鋭と言われた制作会社でウェブディレクターとして働き始めたのです。入社した時印象的だったのは、ウェブディレクターの先輩に「君はエンジニアと仲良くなれそうだね」と言われたこと。その時はあまり腑に落ちませんでしたが、実際に働いてみると、言っていることの半分もわからないながら、エンジニアさんとは最初から自然にコミュニケーションをとることができました。ここで働いていた3年間で、その会社の組織規模は3倍にもなり、大きな変化が起きる環境の楽しさを知ったのはこの時でした。
──その後入社されたのはがらりと変わって大手小売店だとか。どのようなきっかけで業界を変えたのでしょうか?
さまざまなクライアントの案件を担当するうちに、一度クライアント側の立場で働いてみたいと思ったからです。仕事を辞めることを決めた後、転職しないかと声をかけてくれたクライアント先に転職することになったのです。
──そこでの仕事はどのようなものでしたか?
まず、終業のチャイムと同時にみんなが帰っていくのに衝撃を受けたほどホワイトな環境で驚きました。仕事内容はネットショップから販促施策の起案、オウンドメディアの運営などさまざま。オウンドメディアを運営していた時は、毎回スタジオを貸し切って写真を撮影したり、バイヤーの方を取り上げたりとさまざまなコンテンツを作っていました。また、このメディア運営を通して色々なメーカーの方にお話を聞けるのがとても楽しかったのを覚えています。
──この次のキャリアが STORES ですよね。この時の転職軸や理由は何だったのでしょうか。
正直に言うと、ベンチャーが恋しくなってしまったのが大きな理由です。それまでの仕事も充実していたのですが、これから新しいサービスやプロダクトを作っていこうとする熱量や、組織の団結感、なんでもやってみる仕事のスタイルや裁量の多いベンチャー的な働き方をもう一度してみたいと思ったのです。また、ここでもう一度自分に少しストレスをかけて成長したいと思ったのも転職の後押しになりました。
── STORES を選んだ理由は何だったのでしょう?
もともと代表の佐藤さんが大学の同窓だったこともあり、STORES のことは創業当時から知っていました。その時「楽しそう」と思ったのを覚えていたこと、一社目の同僚が STORES で働いていて誘ってくれたことから応募を決めました。
時短で働けることも STORES を選んだ理由のひとつです。ベンチャー企業であることを軸に転職をしたものの、時短勤務がハードルになって思うように転職活動が進みませんでした。そんな時 STORES は時短勤務であることをマイナス要素と捉えず採用を行なっていたのです。配属されたのは現在の STORES(ネットショップ)のマーケティング部門。SNSの運用などを行い、その後広報に配属されました。
手探りの広報で得た
「人を巻き込む」仕事のスタイル
──広報での仕事はいかがでしたか? これまでのスキルを活かして活躍されたのではと思います。
いいえ、そんなことは全くありませんでした。広報をやっていて「私、広報が向いているな」「できるな」と思ったことは一度もなかったのではないでしょうか。広報の経験がなかったので、やれそうなことから手をつけていきました。前職でのオウンドメディア運営のスキルを活かしてオーナーさんに取材に行ったのも思い出深いです。そうして仕事をしている間に徐々にメンバーが増え、広報経験豊かな方も仲間入りしてさらに仕事が本格的になっていきました。けれど、私の中にはいつも「あまりできてないな」という感覚がありました。
──仕事に手応えが出てきたのは、いつ頃からなのでしょうか。
採用広報を任せていただいたことです。この記事が掲載されている「STORES People」の運営をはじめ、エンジニア採用広報のためにCTOの藤村さんと1on1を毎週行ったこともありました。採用広報として頑張った仕事のひとつが、2022年のアドベントカレンダーです。リレー形式で記事をつないで毎日アップする取り組みなのですが、膨大な量のテキストをチェックするのはとても大変な作業でした。一方で、記事を書いてくれる人を誘ったり、テキストの校閲のためにエンジニアさんにtextlintを作ってもらったりと、「人を巻き込む」ことで仕事を良いものにできる実感を得た仕事でもありました。
──確かに、えんじぇるさんは人を自然に巻き込んだり、アサインするのが上手ですよね。CTOの藤村さんがホストを務めるPodcast番組『論より動くもの.fm』も好評です。あれはどうやって藤村さんを巻き込んだんでしょうか?
先ほどお話ししたように、エンジニア採用広報のためにひたすら藤村さんと1on1をしていたら、藤村さんの話すことがすごく面白いことに気づいたのです。考えていることも面白いですし、知識が豊富で、いろいろな気づきをくれる藤村さんのおしゃべりをこのまま配信できないかなって。背景には、テキストを執筆いただく案が難航していたということもあり、まずはPodcast番組を始めてみました。
──これまでも音声メディアを運営したり企画したりしたご経験が?
全くありませんでした。これはやったほうが良いし、いつかプラスになる日が来るだろうという直感ひとつで始めました。音声の編集や文字起こしを私がやるなら決裁や承認はほとんど必要ないですから。デザイナーチームに可愛いロゴを作ってもらって、あとは私が頑張るという方法でこの番組は配信されています(笑)。
最近になって、「やっていてよかったね」と藤村さんに言っていただけたり、RubyKaigiなどで社外の方にお会いした時に「Pocast聞いてます」と声をかけてもらえるようになりました。
──「人を巻き込む」が実を結んだ瞬間ですね。誰かを巻き込む時、心理的なハードルはないのでしょうか?
うーん。ないですね。言わない後悔より、言った後悔のほうがいい。過去に恋愛してフラれた経験があるので、こういう考えなのかもしれません(笑)。
技術広報の知識インプットは体当たりで
──2023年10月からは、採用広報の中でもエンジニア向けの採用広報を行う、技術広報にキャリアをピボットさせましたね。これはどのような経緯でしたか?
広報のマネージャーに「やってみる?」と声をかけてもらいました。二つ返事で承諾したのですが、実はタイミングよく、他社の技術広報の方と少し前にお話ししたばかりだったのです。その時「広報職の人はたくさんいるけれど、技術広報ができる人は少ない」という話を聞いたのを覚えていて、専門的な広報ができるようになれば自らのキャリアアップにつながりそうだとチャレンジすることにしました。また、その方の「エンジニアから技術広報になった人は技術のことがわかる一方で苦手なこともあるはず。自分の強みを活かした技術広報になれば良い」という言葉にも背中を押されました。
──技術広報と言うと、エンジニアリングの知識が豊富なイメージがあります。どのように知識をインプットしたのでしょうか?
それが、本などを使って学ぶことがないんです。「学べ」ともあまり言われなかったような気がします。とにかく仕事を通して、毎回壁にぶつかりながら技術の知識を増やしていきました。
例えば、技術に関するイベントのレポート記事の執筆では、初めはわからない言葉だらけでした。そこで、わからない言葉を響きを頼りに聞こえた通りに検索して、それをひとつひとつ学んでいきました。技術広報になりたての私に、エンジニアの皆さんも専門的な仕事を期待していないだろうと考え、わからないところはレビューしてもらいながらなんとか目の前の仕事を終わらせていきました。すると、次第に専門用語が頭に入り、技術に関する知識も増えていくようになりました。それを何度も繰り返して今の仕事ができるようになったのです。思えば、今までずっと一緒にはたらく人に助けられているんですよね。
──技術広報は、エンジニアリングに関わるイベントのブース運営なども行っています。そこで出会うエンジニアの方々とのコミュニケーションがとても上手だと聞きました。
本当ですか? この間 STORES のオフィスで行ったイベントなんて、終始人見知りを発揮してしまって後で後悔したほどです。強いて理由を挙げるとすれば、知識のインプットと同様、体当たりで知っている方を増やしているかもしれません。
例えば、この間RubyKaigiが行われたのですが、そこに何の知識も顔見知りもいない状態で飛び込むのが怖くて。より多くの女性がプログラミングに親しみ、アイデアを形にできる技術を身につける手助けをするコミュニティであるRails Girlsに事前知識をつけようと参加してみました。そうしたら、そこでコーチの方に手取り足取り教えていただくことができて。このイベント参加のおかげで、事前知識も知り合いも増やすことができたんですよ。
──全ては実践から、ということですね。
その通りです。実は、髪の毛をピンク色にしたのも、イベントで顔を覚えてもらいやすくするためなんですよ。Rubyにちなんでピンク色にしました。美容師さんに「仕事で大きなイベントがあるので髪の毛をピンクにしたい」と言ったら驚かれましたけど。
STORES のわくわくする環境を
技術広報で広めていく
──インタビューを通して、えんじぇるさんのはたらき方が見えてきたような気がします。フィジカルが起点になって、大きな力になっていくような。今、STORES やその仕事に対してどんなお気持ちを持っていらっしゃいますか?
技術広報を1年くらいやってきて、場づくりの楽しさを実感しています。イベントや、社内カンファレンスなど、なんとか楽しんでもらおうとアイディアを出すと、来た人が反応してくれるのが嬉しいんです。マニュアルではなく、実践で仕事ができるのも私に向いているような気がします。この間はノンアルコール、子ども連れ歓迎のミートアップイベントを行ったらとても好評だったんですよ。そうやって、「自分だったら、このほうが嬉しい」という視点を入れられるのもこの仕事の楽しいところです。
──それでは、これからも場づくりを?
そうですね。私は飽き性なので、同じイベントを同じように運営するのでは少し物足りなく感じてしまうんです。せっかくイベントを行うなら、いつも何かしら新しい要素を入れて、自分も楽しめるイベントにできたらいいなと思います。そして、 STORES に「いいエンジニアがいる」「技術がんばってるな」というイメージを持ってもらえるアイディアをどんどん出していきたいですね。今年は、あらたにRubyコミッターの方が仲間入りするなど、わくわくするニュースがたくさんありました。それを技術広報としてたくさんの人に伝えていきたいと思います。
(写真・文:出川 光)