積み重なるコードを地層に、生まれゆく課題を山に例えた。STORES Tech Conf 2024 "New Engineering" クリエイティブ制作のすべて
先日、初めて自社開催テックカンファレンスを行った STORES 。会場で目を引いたのは、色鮮やかな山をモチーフにしたメインビジュアルです。そのこだわりや制作過程を紐解いていくと、 STORES の事業やエンジニアリングへの思いや隠れたエピソードが飛び出しました。テックカンファレンスをリードした企画者の加藤千穂さんと、クリエイティブ全般を制作した遠藤瑞紀さんにお話を聞きます。
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構想期間2年を経て現実になった自社開催テックカンファレンス
──先日は自社開催テックカンファレンス「STORES Tech Conf 2024 "New Engineering"」お疲れ様でした。この取材では、このイベントとクリエイティブのお話を伺います。まず、このカンファレンスについて教えてください。開催の構想はいつ頃からあったのでしょうか?
加藤:開催の構想は2年ほど前からありましたが、予算などの都合で期が熟すのを待っていました。私が担当している技術広報の今年のテーマが「偉大な業務ソフトウェアを作る、業界最高水準の技術組織」に決まり、これを印象付ける施策が必要になり、満を持してこの企画が動き始めました。CTOの藤村さん、VPoEの佐藤さん、PXの高橋さんの後押しやサポートもあり、自社開催テックカンファレンスの実行が現実味を帯びてきたのです。
企画が立ち上がってからは、予算獲得に動きました。協賛ではなく自社開催のテックカンファレンスが必要であることを「一般的なカンファレンスが音楽フェスならば、自社開催のカンファレンスは単独ライブ」と位置付け、予算獲得の資料を作成。もっとも、予算獲得資料はPXの高橋さんが大幅に修正をしてくれて、「単独ライブ」のくだりは付録ページになったのですが(笑)。
──無事予算が降りてからは、どのような動きを?
加藤:「業界最高水準の技術組織」であることを伝え、これまで持たれがちだった「STORES は ECの会社」という印象を払拭することを念頭にさまざまなことを決めていきました。その後CTOの藤村さんによりテックカンファレンスのコンセプト「New Engineering」が決定。いよいよクリエイティブを依頼するため、デザインチームとキックオフの打ち合わせを行いました。
遠藤:キックオフには、私と、デザインチームのマネジャーである荒木さん、先輩の石橋さんの3名で参加しました。「New Engineering」のコンセプトと、「強い感じにしたい」という要望をいただき、その後デザインチームでざっくりとした方向性を定めました。
その後、「New Engineering」から「自由」「偉大」「発見」「進化」というキーワードを抽出し、デザイナーチームで全員がそれぞれ1案ずつアイデアを持ち寄ることに。1案のつもりが作っているうちに楽しくなって、3案を作りデザインチームで見てもらいました。すると、デザインチームからの提出を全て私の案にしようということに。今思うと、若手の私にチャンスをくれたのかな、と思います。
STORES のエンジニアリングの「強さ」を伝える3案
──遠藤さんが提出した3つの案はどのようなものだったのですか?
遠藤:これが私がお持ちした3案です。強さを伝えるため、3案とも黒を基調にしたアイデアになっています。テクノロジー感や先進性を伝えるためにこのようなバリエションを出しました。
加藤:どれもすごく格好よくて、この案が出た瞬間に皆とてもテンションが上がっていましたよね。どの案もそれぞれ人気で決められないので、最終的にはCTOの藤村さんが採用案を選ぶことになりました。
無限に生成される山に解いていく課題を、カラフルな地層にコードを表した
──最終案は、カラフルな線が山のようになっているビジュアルがとても鮮やかです。どのようなコンセプトで作ったのでしょうか。
遠藤:「New Engineering」の「New」について自分なりに掘り下げていくと、STORES のあたらしい取り組みや、仕掛けていく事業、ストイックさなどの要素が見えてきました。それらから、いろいろな課題に果敢に挑戦する様子を山に例えたこのビジュアルのコンセプトが生まれました。
STORES のエンジニアが取り組む課題が山ならば、その数や登り方はひとつではないはずです。その可能性をビジュアルに落とし込むため、Processingというソフトウェアを使って無限に山のイメージを生成する方法を取りました。
また、この山は切り取り方を変えると地層のようにも見えるようになっています。「プログラミングを行う時の黒い画面にカラフルな色が重なった様子が地層に見えるな」と気づいたこと、さまざまな人がコードを積み重ねていくプログラミングのプロセスが地層のようであることから、山にも地層にも見えるカラフルな線の重なりをクリエティブに落とし込みました。
──使われている色はどのように選んだのですか?
遠藤: STORES の東京オフィス近辺の恵比寿の街並みから抽出しました。 STORES が提供しているプロダクトは、街のお店が使ってくれるもの。たくさんのお商売が溢れる、街の課題を解いていくという隠れたメッセージを表現しているんです。
加藤:すごいなあ。こういう深い思考が、デザインを良くしているんだなと改めて実感しました。デザインのやりとりは、途中でこちらから何かリクエストやディレクションをすることすら必要なく、お願いしたら出来上がっていたんですよ。また、準備の間にもデザインの力を感じさせられることが何度もありました。
今回のカンファレンスでは、スピーカーを運営側から打診するのではなく、全員から発表内容を募集する形を取りました。そのため、エンジニアにとっては、少し負荷が高い準備になりましたが「特設サイトができました」「スピーカーのTシャツができました」とデザインを発表するたびに皆のモチベーションが上がり、皆が積極的になってくれたのです。格好いいビジュアルに引っ張られるようにしてカンファレンスのイメージがより具体的になっていきました。
初めての映像制作は社内のコンポーザーと連携
──カンファレンス当日には、さまざまなクリエイティブが会場を彩りました。トートバッグやTシャツだけでなく、会場のサイネージや登壇者の後ろの背景幕など、見ていて圧巻のデザインでした。中でも難しかったものは何でしたか?
遠藤:オープニングで流れる30秒ほどの動画です。実は動画を作るのはほとんど初めてで、どう作って良いかもわからないところから始まりました。After Effectsの使い方を何度も調べ、動画に必要な要素を集めてみても、途中までは動画の構成にも検討がついていない状態でした。
流れが一気に変わったのは、音楽ができたことです。加藤さんが社内で作曲ができるykpythemindさんに依頼をしてくれ、その音楽に合わせる形で映像を作っていきました。音楽が、静かな曲調からだんだん盛り上がることにヒントを得て、映像も前半は色と情報を絞り、後半にメインビジュアルに使ったたくさんの色と文字要素が出てくる構成にすることを思いつき、そこからは一気に作業が進みました。
社内の方に作曲を依頼できたことで、嬉しい驚きもありました。8月下旬頃にできあがった映像のラフをykpythemindさんに見せたところ、その映像に合わせて少し音をアレンジしてくれたのです。後半盛り上がる直前の「ピコン」という音をそこで追加してくださり、最後にぐっとクオリティを上げることができました。
加藤:9月中旬に行った会場の下見の時まで、私は映像を見ていませんでした。会場の大きな会議室のプロジェクターで投影された大画面の映像を見た時は鳥肌が立ちました。「格好よすぎる!」って。会場の方もあまりのクオリティにとてもテンションが上がっていて、なんだか誇らしかったです。
「Fun」がつまったたくさんの制作物をご紹介!
──会場に足を運べなかった方のために、今回制作したものの中からいくつかご紹介いただけますか?
加藤:まず、会場に来てくださった方が驚いていたのは、会場の案内図です。「案内図が光っている!」と何度も言われました。このこだわり、すごくないですか?
──これはどのように作ったのでしょう?
遠藤:これは、デザインチームの石橋さんがアドバイスしてくれたシルバーのインクです。他の印刷物のために検討していたインクがとても良かったので、採用しました。このビジュアルコンセプトを作った時、金属のようなイメージがあったので、光沢のある印刷ができてとても満足です。
CTOの藤村さんのこだわりがつまっているのは、トートバッグやTシャツのカンファレンスタイトルの文字。「カンファレンスが終わっても使えるように、フォントを小さくして欲しい」という要望は、私にはない視点でした。
加藤:おかげで、イベントの後にも使ってくださっている方がいるのをSNSで見かけてとても嬉しかったです。
遠藤:トートバッグは、山のデザイン違いで8種あるのもポイントです。最後に余った予算で、バリエーションを作ってもらいました。
遠藤:スピーカーのバックに吊るされたロールアップバナーも、最後の最後に追加させていただきました。配信画面にもよく映えて、作って良かったですね。
加藤:このまま挙げていったらキリがなくなってしまいそう。本当に全てのデザインがお気に入りです。
「攻め」のデザインが導いた初めてのテックカンファレンスの大成功
──最後に、カンファレンスを終えてみて、今回のクリエイティブについての感想を教えてください。
遠藤:作ったものが実際に会場に並ぶと、一気にカンファレンス感が出て実感が沸きました。また、クリエイティブに対してポジティブな感想を、何人かに直接声をかけてもらえたのも嬉しかったです。これも全て、提案したクリエイティブを好意的に受け取り自由にデザインさせてくれた運営とエンジニアの皆さんのおかげです。もしまた来年もあるなら、もっと他に何ができるか、どう良くしていけるか考えていきたいです。
──加藤さんはいかがでしたか。
加藤:今回のカンファレンスは圧倒的にビジュアルの勝利でした。設営が終わった会場に入った瞬間、クリエイティブの力で会場の雰囲気が出来上がっていたんです。最後まで心配していた来場者数も目標を超える大盛況。第一回目の自社開催テックカンファレンスとして、大成功だったと振り返っています。
それを支えてくれたのは、遠藤さんの圧倒的な意志の強さ。「この印刷会社のこの手法ならこれができます」「予算が余ったらこれとこれを作りたい」とアイデアがどんどん出てきて、全て自分で調べて実現してくれる。素晴らしいクリエイティブのおかげで、社内のメンバーも、足を運んでくださったお客様も楽しんでいただけた最高の1日になりました。来年も開催できるように頑張りますので、楽しみにしていてください。
写真・文:出川 光
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