デザインとビジネスの適切なバランス。VPoPD井出優太が見つめる、STORES プラットフォーム
2022年4月にVP of Product Design(以下、VPoPD)に就任した井出優太さん。より良いプロダクト体験を提供し、STORES プラットフォーム を利用する顧客に多くの価値を届けるために新たな役割に就きました。井出さんに、VPoPDの仕事、そして現在のSTORES プラットフォームの強みや課題などを聞きました。
VPoPDの仕事とSTORES プラットフォーム
──VPoPDに就任して初めてのインタビューですね。まずは、VPoPDのお仕事について教えてください。どんなことを担当するのでしょうか?
プロダクトの設計をする専任者として、基本的にすべてのプロダクトデザインに責任を持つ役割です。デザイン、エンジニアリング、プロダクトマネジメント、ビジネスを横断して、その設計を進めていきます。
具体的には、見た目のデザインはもちろん、プロダクトの中長期のロードマップを作ったり、設計のフィードバックをしたりなど、やることは多岐にわたります。
と言っても、これらの業務はこれまでやってきた仕事なので、基本的にはこれまでの継続で、大きく変えないほうがいいだろうと思っています。何かを新たに任命された就任ではないので、これまで通り、プロダクトの未来を考えながら、出てきた課題に対処していく。
──それでは、就任によって変わったことはあまりないのでしょうか?
あんまりないですね。もともとやっていた仕事に、名前がついたというだけで、もともと期待されていた役割を予定どおり担う、というイメージです。でも、社内の見え方はちょっと変わったりするのかな。
──社内の見え方は確かに、変わりそうです。
もともと「権限がありそうな感じはするけど、何をやってる人だろう?」と思われることが多かったんですよ。「社歴も長いから、意思決定できるらしい」みたいな。それがオフィシャルに意思決定できる人だと表されることになったので、そういう影響はあるかもしれません。
僕のこと、「怖い人だ」と思っている人が多いらしいので、より怖さがでるんじゃないかと心配してはいますが......(笑)
──それは初耳です(笑)。 環境は変わらないとして、ご自身の気持ちとしてはどうでしょうか?
気持ちは、変化した部分はあるかもしれません。設計を考えるときって、どのレベルの抽象度であったとしても、実際にいま動いているソフトウェアを知らずにできることではないので、現場に深く入り込みすぎている。そのスタイルのままでいいのかな、というかそれくらい理解していないといい設計ができるとは思ってないんですが、バランスをすり合わせていく必要があるなとも感じています。
──経営陣との関係は変わりましたか?
これから変わっていくかもしれません。僕と(代表の)佐藤さんがよく話しているイメージがあるかもしれませんが、実際の頻度はそこまで多くないんですよ。実はSlack DMとか一回もしたことないし、Facebook Messengerで結論のないアートの話をしてたりすることの方が多い。この就任をきっかけにもっと話していこうと思っています。経営陣にもデザイン部門が何をやっているか知ってもらったほうが良いし、問題があれば一緒に解決していきたいと思っています。
単体でも、併用でも伸びるプロダクトを持っている強み
──これは経営陣のみなさんにインタビューがあると共通して聞いていることなのですが、heyの組織としての強みはどんなところにあると考えますか?
heyの組織としての特徴は、異なるサービスをやっていた複数の組織がくっついてできていることです。良い面と悪い面がありますが、良い面は起業家が多いこと。それぞれの会社をゼロから立ち上げた起業家が何人もひとつの会社に属しているのは圧倒的な強みだと思います。
──プロダクトの強みはどんなところでしょうか?
まず、単体で伸びている製品を複数持っていること。スタートアップの中で稀な存在だと思います。STORES も、 STORES 決済 も、 STORES 予約 も伸びているし、STORES レジ は急速に立ち上がった。さらに個々の数字だけでなく、それらが併用される数も伸びてきている。これはすごいことです。
──複数のプロダクトというお話が出ましたが、それらを包括した STORES プラットフォームで、大切にしていることはありますか?
普通の回答かもしれませんが、まずより多くの人がちゃんと使いこなせるようにすること。そのために、どうすればオーナーさんの仕事の一部として組み込んでもらえるかまでを想定するのが重要です。
また、あやさん(CPO 塚原文奈さんのこと)が繰り返し言っていた「テンションが上がるプロダクトにしたい」という思いをちゃんと守っていこうと思います。「テンションが上がるプロダクト」とはなんだろうとずっと考えていて、僕の中のいま一番お気に入りの解釈は、「オーナーさんのよろこびを、一緒によろこんであげられるようなプロダクトでありたい」という解釈です。
楽しく使ってくれることや、開くだけでわくわくするというのももちろんありますが、プロダクトを使いこなしてオーナーさんが何かを成し遂げたときに、一緒によろこべるかどうか。これを設計できているということは、逆にいうとものすごく高い顧客解像度があることだと思っています。オーナーさんの成功を願い、そのためにプロダクトを作っていくんだという精神は、短期の売り上げには現れにくいかもしれませんが、長期的にとても重要で、守っていきたい部分です。
アートとサイエンスが対立する時、そのバランスをとるのが役割
──なるほど。その話からもつながるかもしれませんが、現在の課題があるとしたら、どんなことでしょうか。
重たいことですが「デザインをちゃんとする」ということです。プロダクトの品質を高い水準で保ち、適切に変化させていくことは、長期的な資産になります。その品質に安心感や信頼が積み上げられていくのです。
一方で、今私たちが掲げているバリューに沿って、とにかく挑戦すること、とにかく早く価値をデリバリーすることを突き詰めると、どこかで品質とトレードオフにされてしまう部分はやはりあると。本来は、品質を高めておくことが速度につながるのですが、実際に組織としてやろうとすると難しい。今のところ、そのスピード、挑戦と対になる品質の担保を負うバリューがないので、デザインや顧客体験に責任を持つ動きがとりづらくなりやすい状態です。とはいえ、heyはデザインが重要であることを多くの社員が理解していて、業務範囲や影響範囲も広いので、蔑ろにされるということはなく、バリューにはないけど、ある意味文化的に守られている状態だなと思っています。
そういう状況の中で、品質を守り高め続けること。アートとサイエンスが対立した時、アートはトップダウンで守らなければサイエンスには勝てない。なかなか重い課題ですが、現在感じている大きな課題です。
──かなり難しい問題だと思います。井出さんは、これをどう解決していこうと考えていますか?
これまでは、 STORES 決済 なら(佐俣)奈緒子さん、STORES ならあやさんと、トップがいいものを出すことに執着してきたから品質が守られて、信頼が積み上がってきました。それが変化してきた今、一緒にはたらくみんなに何を目指したいかを理解してもらうとか、品質とは何か・品質を上げるために何を大事にするかのガイドラインを決めていくとか、そもそもデザイン組織自体がクリエイティブであり続けるための仕組みや慣性をどうやって作っていくかを考えたいなと思っています。それなしで数字と比べられてしまったら、品質が折れる以外に道がないのですから。
ポジティブに考えれば、僕がVPoPDに就任したのはそのバランスをとるためなのだとも思えます。ビジネスの視点に品質の担保が引っ張られないようにしたいです。いや、します。
オフラインとオンラインをゆるく跨ぐ未来
──最後に、これからの STORES プラットフォームの展望を聞かせてください。
まず短期では、ひとつひとつのプロダクト、事業を伸ばしながら、複数のプロダクトを併用してもらえるオーナーさんを増やしていきたいと思います。併用してくれるオーナーさんの数は順調に伸びてきていますが、それぞれのプロダクトを併用した時に連携する部分を強化する機能をさらに増やしたいし、使いやすくしたいですね。
その先には、複数のプロダクトを併用するという考え方ではなくて、「STORES」を使ってさまざまなことを実現するというような、真にひとつのプロダクト/プラットフォームとして扱えるような状態を目指していきます。
オフラインとオンラインをゆるく跨いでオーナーさんがお商売ができる世界が待っています。「店舗を持っている人がネットショップを作る」という単なるデジタル化ではなく、消費者側の変化に合わせて、店舗が今あるオペレーションの地続きでネットに染み出していくような、オンラインとオフラインがゆるくつながった状態があるはず。それをちょっとずつ探索し始めているのが、今なのだと思います。
(写真・文:出川 光)
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