これからの働く環境を作っていく、STORES ダイバーシティプロジェクトの現在地
STORES は、2023年1月にダイバーシティを実現するための方針を策定、プロジェクトを発足し、同8月にその定量目標を社外にも公開しました。大胆かつ具体的なダイバーシティの取り組みを、プロジェクトメンバーとして推進するのは、PX部門の高橋 真寿美さん。ダイバーシティ実現に強い思いを抱くようになった原体験から、プロジェクトの背景と進捗まで、お話を伺いました。
定量目標を掲げ実現していく、 STORES のダイバーシティ
──このインタビューでは、 STORES のダイバーシティプロジェクト(以下、本記事内ではプロジェクト)についてお話を聞いていきたいと思います。まず、このプロジェクトについて簡単に教えてください。
このプロジェクトは、2023年1月に立ち上げました。プロジェクトオーナーは取締役 / VP of people Experience の佐俣さん、プロジェクトメンバーは有志の経営メンバーです。私は旗振り役として、方針・アクションプランの企画と実行、マネジャーなど関係者との連携などに携わっています。
STORES が大切にしたい多様性は、STORES バリューを体現していること“以外”の全てです。その上で、ダイバーシティ推進の第一歩としてジェンダーに関する目標を掲げ、2030年の達成を目指してアクションを行っています。具体的には、2023年に16.2%だった女性管理職比率(社内取締役含む)を2030年までに40%にするコミットメントを掲げています。また、コミットメント達成に向けて「管理職の新規任用における女性比率を50%にする」「正社員採用の女性比率を、エンジニア職で30%以上、それ以外の職で50%にする」の二つのKPIも設定しています。
──かなり具体的な目標を設定している上に、それを社外に公表しているところが特徴的ですね。
ありたい姿がない限り、現状との差分も分かりませんし、改善もできません。これまでの STORES の組織開発でも、ありたい姿をなるべく具体的に置き、その上で現状を定量・定性の両面で捉えてアクションすることを大切にしてきました。それと同じことを、ダイバーシティプロジェクトでも大切にしたいと思ったんです。社外にまで定量目標を公開するかは迷いましたが、「STORES がダイバーシティ推進にコミットしている」ことが、定量目標を公開する本気度と共に認知されれば、多様な人材が集まる後押しになると考えました。
──これまで、具体的にはどのようなことを行なったのでしょうか?
まず、毎月全社で行う「レビュー会」でプロジェクトの方針と背景を発表しました。その後、マネジャー全員にダイバーシティーについての理解を深めるワークショップを行ったり、『ダイバーシティーレポート』として 現状数値と目標数値、それに対するアクションプランを社内外に公表しました。現在は、取締役会・経営会議、マネジャー・メンバーと連携し、ダイバーシティー実現のためのアクションプランや数値を継続的にモニタリングしています。
今の自分の働き方が、これからの世代の環境を作っていく。ダイバーシティプロジェクトを立ち上げた理由
──プロジェクト立ち上げの経緯を教えてください。
取締役 / VP of people Experience の佐俣さんと、「そろそろダイバーシティについて意図的に取り組みをしたいね」と会話したのがきっかけです。個人的にもダイバーシティに思いのある有志の経営メンバーと議論を行った上で、全社プロジェクトとしての立ち上げを経営会議に起案しました。
──ご自身のダイバーシティー推進への強い思い入れはなぜ生まれたのでしょう。
実は、もともと強い思い入れがあったわけではありません。私が社会人になったのは2012年、企業における「女性活躍推進」が人事のテーマとしてクローズアップされるようになったタイミングで、2015年には女性活躍推進法が成立したことで一時大きなムーブメントとなっていました。当時、大手企業の人事部門向けにクライアントワークをしていたので、人・組織の重要テーマとしてはもちろん認識していましたが、それ以上の思い入れや課題意識は持っていなかったんです。
この状態から、自分自身の課題として捉えるようになったのには、二つのきっかけがあります。
一つ目は、私に後輩ができたこと。それまで私は、少し体力的に無理をして働いて成果を出すことに、何の違和感も持っていませんでした。そんなある日、担当していたお客様を後輩に引き継いだときに「私には、同じような働き方はできないので、不安です」と言われてしまったことがあったんです。これをきっかけに、今の自分の働き方やふるまいが、これからの世代の働く環境を作っていくことを強く実感しました。
二つ目は、社内イベントを通して多様性の様々な側面を知ったことです。2017年頃、リクルートでは「Be a DIVER!」というダイバーシティ推進プロジェクトがあり、様々なテーマで社内イベントを開催していました。私は「LGBTQ+」「男性育休」の回に参加しました。ここで、当事者の方々も含めて対話をしたことが、幅広くて深いダイバーシティの世界に関心を持つきっかけとなり、このテーマに関するインプットを始めるようになりました。
多様性の世界について知り、考えることは、自分自身と向き合う作業でもあると感じます。特に、ジェンダー格差について知った時には、自分がこれまで信頼していた世界が、グラグラと揺れるような感覚を抱きました。現実を受け止めた後は、じゃあ自分はどう生きるのか、どう行動するのかを前向きに考えられるようになりました。
──ご自身の経験からも、ダイバーシティの重要性を感じていらっしゃったのですね。
現状分析から見えてきた STORES のダイバーシティに対する課題
──ここからは、 STORES のダイバーシティーの課題や現状について教えてください。まず、このプロジェクトが始まる前の STORESにはどのような課題があったのでしょうか?
ここからは、ダイバーシティプロジェクトとして注力すると決めた「女性管理職比率」に絞ってお話しをしていきます。2023年7月時点で、管理職全体に占める女性比率は16.2%、シニアマネジメントクラスに絞ると女性比率はおよそ5%でした。取締役に女性がいることもあり、社外から「STORES は女性が活躍している印象がある」というコメントをいただくこともあります。ですが、「意思決定層が属性面でも多様である」というありたい姿に照らして考えるとシビアな状態でした。
── このような数字には、どのような背景があるのですか?
プロジェクトでは、採用・任用・評価査定・退職等の人事データの分析を行いました。結果的に分かったことは、特にマネジメント・スペシャリストクラスの採用母集団における男性比率が高く、それが最終的な管理職における女性比率に影響しているということです。2022年から2023年は STORES の組織が急拡大した時期で、特にマネジメント・スペシャリストクラスを大量に採用した時期でした。 この時社内にダイバーシティーについての明確な方針がなかったため、採用市場の比率がそのまま組織に反映されていました。
STORES は、専門性やスキルが多様なメンバーが多く「なんとなく、多様な組織であれるだろう」という油断があったのも事実だと思います。社会にジェンダーギャップがある以上、意図的かつ計画的に取り組みを行わない限り自社のギャップを埋めることもできないということだと思っています。
──プロジェクトが発足した2023年は、 STORES の事業にとっても重要な時期でした。このプロジェクトは事業運営に対しどのような位置付けなのでしょうか。
ダイバーシティ推進は比較的、中長期視点で重要なテーマであると捉えられることが多いと思います。STORES でも「今、やるのか」という観点での議論は行いました。しかし、社内の属性の比率を変えるということは、着手が遅れれば遅れるほど難しくなることです。社内の意思決定層の多様性が損なわれた状態で意思決定を繰り返すことで、それが固定化されていきます。多様性の力が生きる組織をつくることは、事業運営の下位概念ではなく、並列で存在する組織戦略の中核をなすものです。どちらかを優先する・優先しないではなく、同時に達成を目指すことだと思っています。
──先ほど、採用市場の比率がそのまま組織に反映されてしまうというお話がありました。これを防ぐためにどのようなことを行なっていくつもりですか?
今のところ、選考通過率における男女差はなく、採用母集団における比率の差が大きいということが分かっています。採用プロセスがフェアだったとしても、母集団の比率が偏っていては意味がありません。特に、世の中的にも女性が少ないマネジメント層やエンジニアの採用については、情報の積極的な提供や、候補者をこちらから探しにいくアクションが必要だと考えています。
エンジニアの女性比率の向上に対しては、そのコミュニティづくりや育成から旗振りをしていくつもりです。女性向けの採用イベントを行ったり、女性がテックカンファレンスに参加しやすくするための取り組みを積極的に行っています。また、技術に気軽にふれあう機会や育成機会をつくることで、世の中のエンジニアの女性比率そのものを上げることにも貢献したいと思っています。
女性管理職比率がアップ。ダイバーシティプロジェクトの最初の一歩
──このプロジェクトが発足して、社内に変化はありましたか。
定量的には、女性管理職比率が16.2%から20.3%に上がりました。また、2023年の新規任用における女性比率は26.3%となり、管理職候補者層(※)における女性の割合27.5%と同程度の割合で女性が任用されてることになります。こうした定量的な数値を見ると、順調なように見えるかもしれませんが、人が関わっている以上、バイアスの影響からは逃れられません。バイアスがかかりづらい仕組みにできているのか、良い形で運用できているのかは常に考え続けたいと思っています。(※ 管理職候補者層:等級により数年以内に管理職候補となりうる人材を判断)
定性的には、「マネジャーを目指したい」と明言する女性が増えたように感じます。シニアマネジャー以上を目指したいという話もよく聞くようになりました。方針を出す前に、女性社員と面談で会話した時には「マネジメントは好きだけど、仕事とライフイベントを天秤にかけてどちらかを諦めないといけないのかな」「マネジャーが限界で、シニアマネジャーにはなれないのではないか」という声もありました。方針を出したことで「自分も目指して良いんだ」「目指せるんだ」と思う人が増えているのは前向きなことですし、全力でその想いをサポートしていきたいと考えています。また、「自分にも何かできないか」「どう学んだら良いか」と声をかけてくれる男性社員が増えました。良い変化が起こっていると思います。
また、これまで気づかなかった課題が見つかるようにもなりました。例えば、シニアマネジャーを対象にしたワークショップの参加者はほとんどが男性です。その中で、参加している女性の「N=1」の意見が「女性を代表するもの」として捉えられてしまいがちなこと。現在の「女性比率」は戸籍上の性別でカウントしていますが、そのカウント方法や戸籍上の性と自分の性が一致しない方にどう配慮すればよいか。また、現在は女性比率にフォーカスしたプロジェクトを行っているけれど、まだカバーできていない課題にどう向き合うべきか......このプロジェクトのおかげで自身の視野が広がり、同時に至らなさを感じる場面も多くなりました。
──プロジェクトを推進するメンバーとして、真摯に複雑な課題に向き合っているのが伝わってきます。このプロジェクトにどのように向き合っていきたいですか。
ダイバーシティーの方針を最初に「レビュー会」でアナウンスした時、全員が慎重に言葉を選びながら話したことで、結果的にとても暗い雰囲気の場になってしまったんです。これはこのプロジェクトの最初の反省でした。ダイバーシティーの推進は組織にポジティブな変化をもたらすもの。配慮のあまり話題に出すのをやめたり、対話を諦めることなく、明るい気持ちでこのプロジェクトを推進していきたいと思います。
また、まだ着手できていないダイバーシティーへの取り組みも段階的に方針を整備していきたいと考えています。この時も、ひとりひとりと対話し、時には軌道修正しながら多様な組織を目指していくつもりです。
── STORES のこれからがとても楽しみですね。ありがとうございました!
デザイン:石橋 講平
写真・文:出川 光
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