未来を見据えた取り組み、2040年店舗の事業環境はどう変化するのか?
先日、「ストアーズはECの会社、ではない」という記事が公開されました。この記事内では「2040年のお店の事業PL(損益計算)」をひくプロジェクトについて触れられていましたが、今回の記事では具体的にどのようにして未来のPLをひいて、そこから何を考察したか、をお話ししたいと思います。と言っても、PLの話から始めても退屈だと思いますので、なぜストアーズがこの取り組みを始めたのか、その背景からお話しします。
なぜ未来のPLに目を向けるのか
ストアーズでは「Just for Fun」をミッションに、こだわりや情熱、たのしみに駆動される経済を目指しています。私たちは、日々 ストアーズのプロダクトを利用する事業者が、いま何に困っているのか」をアンケートやユーザヒアリングを通して探っています。その中で最近、増えてきている課題が「人材が採用できない」というものです。
これまで事業者の課題といえば「集客」関連が多かったのですが、先日実施したアンケートでは、特に実店舗をもつ事業者の間で「人手不足」が新しい事業課題として浮き彫りになりました。人手不足は日本の労働人口の減少という大きな経済環境の変化に伴い、ストアーズの事業者にも影響を及ぼしています。
今後も労働人口は増えることはなく、事業運営に逆風となる経済環境の変化が続いていく時代では、”いま”の調査だけでなく、”将来”の経済環境がお店や事業にどのような影響を及ぼすか?という視点で、将来の事業上の悩みを先行調査することが必要です。そこでストアーズでは2040年を見据えた事業のPLシミュレーションを試験的に行ってみることにしました。
2040年、日本の経済状況を予測する
①人口推移と労働市場の変化
2040年の日本はどうなっているでしょうか?今から15年以上先のことを正確に予測できるはずがないのですが、確率の高いシナリオなら予想することができます。まずは、先ほどの人手不足に関連した人口推移についてです。
将来の人口推移データによると、2040年には現在の1億3000万人から15%減の1億1000万になると予測されています。結果、労働人口だけでなく「モノ」や「サービス」を消費する消費人口も減少するため、2040年には事業者間でのお客さんの取り合いが、一層厳しくなることが予想されます。
②最低賃金の上昇とインフレの影響
次に最低賃金の動向です。政府は2030年半ばまでに全国平均の最低賃金を1500円、労働団体は1600〜1900円とする目標を掲げていることから、足元の上昇率とこれらの目標水準より、2040年の賃金は現在の約2倍、2000円を超えている可能性が高いです。さらに、最低賃金の上昇に伴いインフレ率の上昇も続くと予想されています。2040年にはインフレでモノやサービスの値段が高くなり、最低賃金は2000円に上昇する中で、お客さんが15%も減ることを考えると、今のままの事業運営は難しくなることが伝わると思います。
③事業シミュレーションの実施
これらの経済環境の変化が事業にどう影響するかを詳しく調べるため、前述のお店や事業環境の変化に大きな影響を与えそうな
- インフレ率
- 人口推移
- 最低賃金
の推移と合わせて、事業運営関連のデータを下表のとおり仮置きし、事業規模別に「利益率」がどうなるかをシミュレーションしました。仮置きする数字水準は業種ごとに異なりますが、今回はストアーズで実店舗を持っている事業者に多い「カフェ」に焦点をあてて予測しました。
実際のプロジェクトでは複数エリアのシミュレーションを行いましたが、この記事では2040年に全国平均と同程度(約15%)の人口減少が見込まれている神戸市の結果を下図に示しました。※詳しいシミュレーション条件は、文末記載を参照
初期客単価は800円、初期賃料は坪あたり13,000円としました。推移を比較しやすいよう、初期利益率がどの坪数でも25%となるように1坪あたり客数を調整しています。シミュレーションした結果、10坪だと概ね現状維持という結果ですが、20坪〜50坪では人件費の負担が大きくなり(2024年 vs 2040年比で100%上昇)事業規模が大きいほど利益率が悪化する結果となっています。
シミュレーションから見える利益率アップの鍵
神戸市の例から、想定した経済環境下では事業規模が大きいほど利益率への悪影響が大きいことがわかりました。というのも「最低賃金上昇(100%)>インフレ上昇(37%)>人口減少(15%)」の順で影響が大きく、最も変化の大きい「最低賃金上昇」の影響を受けやすいのが規模の大きい事業者だからです。
ただし、事業規模が大きいと言っても大企業のような規模感ではなく、20〜50坪でパートを数人雇用するような規模の事業者から、人件費の影響を大きく受けることが分かります。つまり、少人数であっても人手を使う事業展開は年々難しくなるため、「いかに接客に時間をかけずに、売上を上げられるか」が重要なポイントになることが分かります。
この「接客に時間をかけない取り組み」は既に広く始まっており、飲食店などでよく見かけるようになったテーブルオーダー・セルフレジ・モバイルオーダーなどが最たる例です。実際、下図に示したとおり「1人あたり接客時間を5分短縮」するだけで利益率が10〜15%改善し、2024年から2040年にかけての利益率の落ち込み率も30〜50%改善される結果となっています。
さらに、「いかに接客価値を最大化するか」も重要な観点です。実店舗に来店したお客さんにECへの導線を用意したり、リピート購入に繋げるなど、来店時だけでなく「リピートまで見据えた広い意味での接客」がより一層必要になります。
ストアーズの現在地と未来
ストアーズを利用している中小事業者にとって、足元の人手不足は大きな課題です。また、今後の最低賃金の上昇を加味すると今まで通りの事業運営では、事業継続ができなくなる未来シナリオが想定されます。ストアーズはこの変化の波を一緒に乗り越えられる存在になれるよう、接客効率化や接客価値最大化の実現を目指して解くべき課題は何かを検証し、ECという枠組みに留まらず、長期的な視点から必要な製品や機能の開発に取り組んでいます。
ストアーズの取り組みに少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ採用サイトをご覧になってみてください!
デザイン:石橋 講平
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