運用を楽にする開発から、内部統制まで。役割を超えるエンジニアのキャリア
2017年入社という長い社歴の持ち主、牧野圭将(まきのけいすけ)さん。その仕事の幅は広く、さまざまな運用を自動化する社内向けの機能開発から、内部統制などの監査の窓口まで。仕事で大切にしていることやこれまでのキャリアについて、矢部剛嗣さんが聞きました。
聞き手:矢部剛嗣(リテール本部 マネージャー)
ちょっと珍しい「出戻り」のキャリア
──今日はよろしくお願いします。hey noteでは初めての取材ということで、簡単にこれまでのキャリアを教えてください。
ナビゲーションサービスの会社でフリーワード検索やバスのリアルタイム位置情報の検索などを開発していました。その後、heyの前身であるストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社の、さらに前身である株式会社ブラケット(以下、ブラケット)に転職しました。
──僕よりも早く入社されたので、社歴はだいぶ長いですよね。当時はどのような状況だったのでしょうか?
当時は全社員合わせて20人にも満たない小さな組織で、エンジニアは6、7名でした。途中からアパレルブランドの公式オンラインショップを作る新サービスの開発を始め、それを一年くらいやっていました。
──僕が初めて牧野さんに会ったのはちょうどその頃でしたかね。
そうだと思います。まだ入社間もない矢部さんに、障害の相談をしたのを覚えています。「それはわからないですね」って、言われちゃったんですけど(笑)
──当時はまだ人手も足りなくて、牧野さんは電話対応などもしていましたよね。
電話対応するカスタマーサポートが一人の時期もあったので、休憩のタイミングによっては誰かが電話対応する必要がありました。自分で受けたお問い合わせの対応を自分ですることもありました。「担当にお伝えします」なんて言っているのに、自分で直したりして。
──牧野さんのキャリアで特徴的なのは、この後「出戻り」をしていることなんですよね。退職された理由はなぜだったのでしょうか。
当時、自分が担当していたプロダクトがほとんどクローズになってしまったタイミングがありました。この時ちょうど30歳だったので、一度違う環境にチャレンジしてみたいと思ったのです。趣味を仕事にしてみたいということと、英語環境に挑戦してみたいという理由で、いわゆる越境ECの会社に転職しました。
──けれど、出戻ったと。
はい。想像していた開発の進め方やエンジニアのサービスへの関わり方にギャップがありました。悩んでいる時に、当時の代表である塚原文奈さんに「戻ってきなよ」と声をかけてもらいました。ありがたかったのは矢部さんが通常の採用と同じようにフローを進めてくれたことです。「バックエンドの採用枠が空いていますよ」と言ってくれて、フラットに選考をしてもらいました。その時ちょうど関わっていた倉庫関連の開発の経験も評価してもらって、「お互いの方向性が一致しているので問題ないですね」と出戻りすることが決まりました。フラットな選考をしていただいたおかげで気まずさもなかったですし、社内では「外部研修から戻ってきた」とよく言われていました。
──それから今に至るまで、今度はheyになったり、会社が統合されたりと色々なことがありましたね。様々なことがあっても辞めずにこられたのはなぜなのでしょう。
組織の変化が多いからかもしれません。組織が変われば自分の立場も変わり、何度も転職しているような感覚なんです。
──なるほど。確かに、手掛けているサービスは同じでも向き合っている課題が違いますよね。
監査対応の仕事の面白さ
──今のお仕事も、入社当時や出戻りをされたばかりの頃には思いもよらないものだと思います。具体的にはどのようなお仕事をされているんでしょうか。
今の僕の仕事は、リテール事業部の監査の開発部門の窓口です。内部監査は内部監査オフィスとセキュリティチームが主導しています。僕は、リテール事業の各種監査対応の開発部門の窓口をしているんです。
──具体的にはどんな仕事なのでしょうか。
まず、上場を目指す上で義務付けられている内部統制報告制度というものがあって、外部の機関がルールを守って開発しているかをチェックする機会があります。僕の役割は監査法人からのヒアリングに答えたり、アドバイスから新たな運用ルールを整備したりすること。内部統制は財務報告に重点を置いているので、経理と連携しながら会計周りのお金の仕組みや、管理が整っているかなどを整備しています。
──内部統制以外にも外部機関からチェックを受ける時の窓口をしてくれていますよね。
PCI DSS、ISMSなどの認証の開発部門窓口も担当しています。こちらは矢部さんと一緒に。監査や審査といったところはまとめて担当しています。
──さまざまな監査に対応するには、膨大な知識が必要だと思います。最初の頃は苦労しませんでしたか?
最初は監査法人の方と話をしても、何を言われているか全くわからない状態でした。けれど、先方の言うことを理解しなければリスクについての議論にもなりません。2019年くらいから猛勉強を始めました。今でこそ監査法人出身の方が社内にいるので答え合わせができますが、当時は社内に誰もわかる人がいない状態。ひたすら本を読んで、他の業種の事例を自分たちの業種に当てはめて解釈するのをひたすら繰り返しました。今では経験者の方がたくさんいて本当に助かっています。
──監査の仕事は、誰もがやりたがるものではないと思います。牧野さんのモチベーションはどこからきているのでしょうか。
内部統制はやらなければならないことなので、ともすると「とりあえずやる」という姿勢になりがちです。そうすると監査に対応する以上の意味がないものになってしまいます。僕が意識しているのは、まず内部統制をちゃんと意味のある、有効なものにしようということでした。どうして内部統制が必要なのか、それが自分たちにとってどんないいことをもたらすかを考えながら運用ルールを作っていくと、面白いなと感じるのです。
さらに、実体験に基づく必要性を感じているのもやりがいのひとつです。僕は、ストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社が数人から数十人の組織になるときに、ルールの必要性を痛いほど感じました。それまでは数人の組織だったのでルールがなくても「よしなに」やれていたことを、数十人の規模で「よしなに」やって失敗した経験をたくさん持っている。実際の体験をもとにどれほどルールづくりが大切なのかを説明できる僕が、監査対応をしているのは悪くないんじゃないかと思っています。だから、内部統制も監査対応も、楽しくやっていますよ。
──おかげで今は、「監査のことは牧野さんに訊けばなんとかなるだろう」という感じになってきましたね。
ヒアリングから始める、運用を楽にする機能開発
──機能開発もやられています。最近「やりきったな」という機能開発はありましたか?
僕は時間がかかる案件を持っていることが多いのですが、その中でも複雑だったのは、銀行振込決済の過払い等を管理する社内用の管理機能です。これまで何年もかけて作られたマニュアルをもとに人間が操作してきた部分をより自動化するため、たくさんのヒアリングを行い、デモを作り、運用してくれるみんなのニーズを確認しながら開発しました。この機能のおかげで、けっこう運用工数が省けていると思います。
──こういった機能は、オーナーさんからフィードバックがあるものではないと思います。さらに複雑で面倒な仕事とも言えると思いますが、やっていて苦になることはありませんか?
僕は特に苦になりません。確かにオーナーさん向けの機能ではありませんが、自分が作った機能によって社内の運用が楽になるので問題ないんです。オーナーさんに向き合うサービスを運用しているのだから、提供する側が苦なく運用できている方がいいですし、それで時間の余裕ができたらもっとオーナーさんのためになることを考えられるはず。もともと自分の中に持っていた顧客視点を、サービスを運用している中の人に向けるようになったということだと思います。
それに、みんなにヒアリングをして、要件をまとめて、システムに落とし込むのが好きなんです。みんなの中にある「こうなったら嬉しい」という要望を形にしていくイメージです。みんながやりたがらないことをやることを、仕事をする上で大切にしてきたということかもしれません。
──機能開発で今見えている手強そうな課題はありますか?
まだまだマニュアルにもなっていない作業が眠っているので、それをどう改善していくかです。「50回のコピぺするのが当たり前だと思ってました」と言われるような運用がまだまだあるはずです。開発部門が知らない運用ルールをいかに探るか、どう開示してもらうかが重要だと思っています。どんな部署からも「これって牧野さんがシステム化してくれないかな」と思ってもらえるような関係を作っていきたいと思います。
──監査の窓口に関してはいかがでしょうか。
各種監査は、一度行えば終わりということではなく、取得したり上場したりした後は問題のない状態を保つ必要があります。さらに、システムや開発ルールも変わっていくので、それに随時対応する必要もある。今は一人でやっている状態なので、いずれ誰かにある程度は引き継ぎたいなと思っています。
「役割を超える」
──今日、質問案の中に「お気に入りのテックバリューは」というものがあったのですが、みんなが敬遠しがちなタスクに挑んでいく姿はまさに「役割を超える」ですね。
そのテックバリューは、僕の一番のお気に入りです。他のバックエンドエンジニアとは少し違う、各関係部署をユーザーにしたり、開発業務を超えるヒアリングをしたり、複雑な監査の窓口をすることで、heyのみんなの仕事が楽になるような仕事ができたらいいなと思っています。ブラケットに入社したときから電話対応をしているくらいですから、その時点から役割なんて超えていたのかもしれません。
(写真・文:出川 光)
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